大分地方裁判所 昭和28年(ワ)212号 判決
原告 合資会社草本商店
被告 平川海産物共範株式会社
一、主 文
被告は原告に対し金二十九万八千五百七十円及びこれに対する昭和二十八年六月二十九日以降完済まで年六分の割合による金員を支払うこと。
訴訟費用は被告の負担とする。
本判決は原告において金十万円の担保を供するときは仮りにこれを執行することができる。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、
原告は製粉及び砂糖並びに粉類の販売等を営業の目的とする合資会社であり被告は海産物の販売並びにパンの製造販売等を営業の目的とする株式会社であるが、原告が被告に対し昭和二十八年四月二日から同年同月二十八日までの間に代金合計金二十九万八千五百七十円相当の砂糖小麦粉バター等を代金は遅くともその売渡後一月間内に支払うべき旨の約定の下に売渡した。よつて被告に対し右代金合計二十九万八千五百七十円及びこれに対するその弁済期の後である本件訴状が被告に送達された日の翌日以降完済まで年六分の割合による商事の遅延損害金の支払を求める。
かりに原告から前記のような商品を買受けたのは訴外水江ヨシヱであつて被告がこれを買受けた事実がなかつたとしても被告は訴外水江ヨシヱが被告の商号を使用して営業をすることを許諾したものであつて、原告は本件売買の相手方が被告であると誤認したものであるから、被告は訴外水江ヨシヱと連帯して本件売買代金を支払うべき義務があると陳述し、
被告の抗弁事実を否認した。<立証省略>
被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として原告及び被告がそれぞれ原告主張のような営業を営む会社であることは原告と訴外水江ヨシヱとの間に取引のあつたこと(但しその内容は不知)これを認めるが、その余の事実は否認する。かりに被告が訴外水江ヨシヱに被告の商号を使用することを許諾した者としての責任があるとしても、同訴外人は昭和二十八年四月三日金額一万七千四百四十五円満期同年同月二十九日、同年同月四日金額一万五千七百五十円満期同年同月三十日、同年同月六日金額二万四千七百五十円満期同年五月二日、同年四月九日金額一万七千百四十円満期同年五月五日、同年四月十日金額七千三百四十円満期同年五月六日、同年四月十三日金額四万四百二十円満期同年五月十日、同年四月十四日金額一万四千六百二十円満期同年五月十二日、同年四月十五日金額一万四千百九十円満期同年五月十三日、同年四月十六日金額一万四千百九十円満期同年五月十五日、同年四月十七日金額一万七千九十円満期同年五月十六日、同年四月十八日金額一万四千九十円満期同年五月十九日、同年四月二十一日金額一万六千九百六十五円満期同年五月二十一日、同年四月二十二日金額一万七千四十円満期同年五月二十二日、同年四月二十三日金額一万四千百九十円満期同年五月二十三日、同年四月二十七日金額一万八千九百六十円満期同年五月十三日いづれも振出地、支払地共別府市支払場所別府信用金庫支払人訴外水江ヨシヱ振出人受取人共に原告なる合計金額二十六万四千百八十五円の為替手形十五通の支払を引受け、これにより同手形金額に相当する訴外水江ヨシヱの原告に対する本件売買代金債務は更改せられて消滅したと述べた<立証省略>。
三、理 由
原告は製粉及び砂糖並びに粉類の販売等を営業の目的とする合資会社であり、被告は海産物の販売並びにパン製造販売等を営業の目的とする株式会社であることは当事者間に争のないところである。
そこで原告と被告との間に原告主張のような取引があつたかどうかについて判断すると、証人河野輝彦及び原告代表者草本利雄は共に原告と被告との間に原告主張のような取引があつた旨供述しているけれども、証人水江ヨシヱ(第一回)同平川光子被告会社代表者平川福太郎各訊問の結果によつて真正に成立したと認める乙第一号証証人水江ヨシヱ(第二回)の訊問の結果によつて真正に成立したと認める乙第二十七号証乃至乙第四十一号証成立に争のない乙第四十二号証乃至乙第五十号証、証人平川光子、被告会社代表者平川福太郎各訊問の結果によつて真正に成立したと認める乙第五十一及び同第五十二号証の各一並びに二及び証人水江ヨシヱ(第一、二回)同渡辺義秀、同平川光子、及び被告会社代表者平川福太郎各訊問の結果に対比して、右証人河野輝彦及び原告会社代表者草本利雄訊問の結果は輙く信じ難く、また証人河野輝彦及び原告会社代表者草本利雄各訊問の結果によつて、甲第一号証の一乃至十一及び同第二号証の一及び二はいづれも真正に成立したものと認められるので甲第一号証の一乃至十一は本件取引の一部に照応する「平川パン」宛の納品伝票であり、同第二号証の一及び二は本件取引に照応する原告会社の「平川パン」との取引台帳であることを認めることができるけれども、被告と右「平川パン」が同一人であることは未だもつてこれを認めるに足りる証拠がないので右甲号証たる書面をもつては原告と被告との間に原告主張のような取引があつたことを証明するに足るものとすることができない。而してその他原被告間に原告主張のような取引があつたことを認めるに足りる証拠がない。
しからば原告と被告との間に原告主張のような取引があつたことは認められないのであつて、このような取引があつたことを前提とする原告の第一次的な請求はその理由がない。
そこで原告の予備的請求について按ずるに原告と訴外水江ヨシヱの間に取引のあつたことは当事者間争なく、而して前記甲第一号証の一乃至十一同第二号証の一及び二成立に争のない甲第五号証の一乃至十五証人水江ヨシヱ(第一、二回)同渡辺義秀、同平川光子及び被告会社代表者平川福太郎各訊問の結果を綜合するとその取引の内容は昭和二十八年四月二日から同年同月二十八日までの間に代金合計二十九万八千五百七十円相当の砂糖小麦粉バター等を代金は遅くともその売渡し後一月内に支払うべき約定であつたことが認められこの認定に反する証拠はない。しかるに前記乙第一号証甲第一号証の一乃至十一証人水江ヨシヱ(第一、二回-後記措信しない部分を除く)同渡辺義秀(後記措信しない部分を除く)同平川光子、及び被告代表者平川福太郎各訊問の結果を綜合するときは、被告会社は昭和二十六年末頃までは、海産物の販売の外パンの製造販売をもその営業の一部門として同会社所有の別府市浜脇東町所在の製パン工場でその営業をしていたこと。訴外水江ヨシヱは被告会社代表者平川福太郎の実妹で当時被告会社に雇われ被告会社のパンの製造販売の営業部門における責任者であつたこと。被告会社のパンの製造販売の営業を廃止した直後の昭和二十七年一月四日訴外水江ヨシヱは、被告会社の右製パン工場を賃借して昭和二十八年四月末までパンの製造販売の営業をしていたこと、その後被告会社は訴外水江ヨシヱとの右賃貸借契約を解除して再び同工場においてパンの製造並びに販売の営業を始めたことその間訴外水江ヨシヱがパンの製造販売をしていたときは原告からの納品伝票にその以前被告会社がパンの製造販売の営業をしていた当時原告との取引について使用していた「平川」という印で依然認印していたこと、訴外水江ヨシヱが右工場を使用していた際は同工場に平川パンという看板乃至広告が掲げられていたこと(右認定に反する証人渡辺義秀の証言は措信しない。)及びパンの製造販売の営業者が被告会社から訴外水江ヨシヱに変つた当時そのことを被告も訴外水江ヨシヱも別段原告に通知せず(この認定に反する訴外水江ヨシヱの証言-第一回-は措信しない)また被告会社のパン製造販売の営業のため使用されていた使用人を訴外水江ヨシヱが引継いで使用していたことが認められる。もしそうだとすればたとえ訴外水江ヨシヱがその営業を営むに際して被告が「平川パン」という名称を使用することに積極的な承諾を与えなかつたとしても黙認して別段異議を止めなかつたものと解するほかなく、而して「平川パン」という名称は、被告の「平川海産物共範株式会社」という商号を正確に表示するものでもなく、また、その名称は被告会社の名称を表示するものであるかまたはその商品の表示するものであるかその文字自体からは必ずしも明瞭ではないけれどもかかる名称を使用して営業を営む営業の主体は取引上「平川海産物共範株式会社」という被告の商号を用いて営業を営む営業の主体を表象するに足りるものであつて、かような自己の商号を表象するに足りる名称を使用することを許諾したものは自己を営業主と誤認した者に対して自己の商号を使用することを許諾した者と同様の責任を負うべきものであると解すべきところ原告が本件の取引が訴外水江ヨシヱでなく原告であると誤認したことは証人河野輝彦及び原告代表者草本利雄各訊問の結果によつてこれを認めることができる。尤も証人水江ヨシヱ(第二回)訊問の結果及び前記甲第五号証の一乃至十五によれば訴外水江ヨシヱが原告との本件取引に関し原告に交付した為替手形はいづれも原告振出訴外水江ヨシヱ引受のものであつて、被告はその手形上の債務者となつていないことが認められるので、かかる事情は本件取引について被告が債務者となつていないことを原告が知つていたこと推察せしめる一つの理由となるけれども成立に争のない乙第二乃至第二十六号証証人河野輝彦及び原告代表者草本利雄各訊問の結果を綜合すると原告と訴外水江ヨシヱとの間の本件取引以前の取引においても原告は右と同様訴外水江ヨシヱ引受の為替手形乃至訴外水江ヨシヱ振出の小切手を受取つていたこと及びそれ等の為替手形乃至小切手がいづれも故障なく決済せられ、且つ、同訴外人が前記認定のように原告が訴外水江ヨシヱがパン製造販売の営業を始める以前において原告自からその営業を営んでいた当時同訴外人が原告会社のその営業部門の責任者であつた関係上原告は訴外水江ヨシヱ引受の右為替手形を被告が原告との間の取引について原告に交付したものとして疑わなかつたことが認められるので、原告が本件取引について訴外水江ヨシヱ引受の前記為替手形の交付を受けていた事実は必ずしも原告が本件取引が訴外水江ヨシヱとの間のものでなく被告との間のものであると誤認していたものであるとする前記認定を覆すに足らない。
よつて被告の抗弁について按ずるに、前記甲第五号証の一乃至十五証人水江ヨシヱ(第一、二回)を綜合すると訴外水江ヨシヱは被告主張のような同訴外人引受の為替手形を本件取引に関して原告に交付したことが認められるが手形引受は元来無因的手形行為であつて、これによつて債権の更改が行われることはあり得ないし(民法第二百六十一条は手形行為によつて債権が更改されることを規定しているが理論上かかることはあり得ないと解すべきである。)通常債務者が債務者引受の為替手形を債権者に交付することは、その債務者がその債務の弁済に代えてすなわち代物弁済としてこれをすることを特に債権者と債務者とが約定した事実がない限り、これをその弁済のためにしたものであると解すべきところ、証人水江ヨシヱ(第二回)の「(右為替手形)は私がパンの原料を原告会社から買受け、その支払に当つる為に引受をした手形です」という証言だけでは右為替手形を本件売買代金の弁済に代るべきものとして原告が受領することを特に約束したものと認定するに足らず他にこのような事実を認めるに足りる証拠はない。しからば被告の抗弁はその理由なきものであつて、結局被告は原告と訴外水江ヨシヱとの前記取引について同訴外人に名板貸をしたものとして同訴外人と共にこれを連帯してその売買代金を支払うべき義務があるものであるから、原告の被告に対しその売買代金二十九万八千五百七十円及びこれに対するその弁済期の後で、本件訴状が被告に送達された日の翌日であること記録上明かな昭和二十八年六月二十九日以降完済まで年六分の割合による商事の法定遅延損害金を支払うべきものとして訴訟費用の負担及び仮執行の宣言について民事訴訟法第八十九条及び第百九十六条を各適用して主文のように判決する。
(裁判官 菅野啓蔵)